生きる力を求めて神谷美恵子の言葉 NO.9

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自力による修養や瞑想によってもどうしようもない自己というものが、

人間の奥底にはひそんでいる。

利己的で、わがままで、でたらめの原始的な自己は、

おそらく古い精神のなせるわざであろう。

もしそうした自己を直視するならば、それをありのまま認め、

最終的には「人間を越えるもの」に身をゆだねるほかないのではなかろうか。

いわゆる「悟り」とか「回心」とかいう宗教的境地は、

自立の精進の結果あらわれることもあれば、

他力の前に自己を投げ出すことによって生れることもある。

自力といっても、自分ひとりの力であるはずはなく、

自力では意識しないたくさんの内外の条件が備わって初めて成就することなのだか
ら、

結局は大きな意味でやはり他力というべきではないかと思う。

要するに自己と自我とかいっても、

そもそも自分からこの世に生まれてきたわけでもなく、

いわば「存在させられたもの」にすぎない。それはちょうど、

花や動物や天体とまったく同じように「存在させられている」にすぎないのだから、

究極的には「存在させたもの」の前に、草木や星のように素直に存在するほかないと

思う。

小我と大我ということを仏教のほうでいうが、

この小我とは自ら意識する自我で、結局は自我の一部にすぎないのだろう。

これに反し、大我とは、万物を「存在させたもの」の手に小我をゆだねるとき、

初めて自己の全体像として、真実の「自己」としてあらわれるものだと思う。

であるから、人が何か岐路に立ち、何らかの重大な選択に迫られるとき、

「小我」によって選ぶことをなるべく避けて、

「大我」的な見地から選ぶことを探り求めるべきであると思う。

これこそ、私たちの存在のすべてを包容する本当の主体にちがいないからである。

もちろん、私たちは浅慮によって誤った道を選んでしまうことがある。

その結果や責任を負って苦しまなくてはならないことがある。

しかし、その際も、過ちを素直に認めて大いなるものの前に身をゆだねれば、

その苦しみをともに負ってくれるものがある。

人の歩みは、ひとり気負って歩んでいるつもりでも、

じつは決して独力で歩いているわけではないのだ。

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