人間が自己中心的な生命観を捨て、

「われ」と「われならぬもの」という分裂した考えをやめればやめるほど、

心はリラックスするようになり、体もおのずからリラックスするようになる。

私たちが自己中心的になればなるほど、それだけ魂も体も緊張度を増してくる。

「在る」という観点からではなく「得る」という観点から人生をとらえるときに、

常に何かに欠乏しているという精神状態が定着して、

心身ともに疲れさせることになるのだ。

真の聖者は、何かを得ようなどとは考えない。

「得る」ではなく「在る」が彼らの生命観だ。

美しい日没に心奪われているとき、

華麗な曲に聴き入って我を忘れているとき、

人は、自分のために何かを得ようなどとは考えないものだ。

非個人的なものを感じとるのは、このような瞬間である。

あなたは、日没を自分のものにしよう、人から奪おうなどとは考えないだろう。

美しい曲を所有したいとは思わないはずだ。

それでも幸せを感じ、絶対的な無私の喜びを知る。

これこそ本当の意味での霊性なのだ。

そして、実生活の辛苦の中でもこのような生命観を保つことができるなら、

あなたは真の聖者の人生を生きることになる。

聖者とは、単なる口先の奉仕や理論ではなく、

生きた宗教をもっている、素朴な、まことの人間といえる人たちのことである。

T・イリオン