恐怖という感情が人間に宿っている。

恐怖とは何だろうか?

恐怖の根源とは何だろう?

恐怖という感情の根は「自己(セルフ)」にある。

自己、つまり「私」への執着が恐怖を作っている。

あなたは自分の財産を持っている。あなたはそれを失いたくない。

だからあなたは「財産を持っている自分」が失われることを恐れる。

あなたは自分の名声や人気、世間での評判や社会的地位を持っている。

だからあなたはそれを失うことを恐れる。

あなたは自分の友人や恋人を持っている。あなたはその人を失うことを恐れる。

あなたは自分の将来や希望、生きる目的を持っている。

だからあなたはそれを失うことを恐れる。

このような対象物、心の中にあるものは、

すべて「自分」を失うことへの恐れである。

自己(セルフ)こそ、恐怖の根源なのだ。

自己こそ恐怖であり、恐怖とは自己の活動性そのものである。

自己を失うまいとする心の闘いが、恐怖である。

よって自己に─自分自身に─しがみ続けるかぎり、恐怖もまたそこにある。

もしあなたが自分を手放し、自己に執着することをやめるならば、

恐怖もまた自然と消えていく。

自己と恐怖は表裏一体の同じコインなのだ。

多くの人々は「自分」というものを手放そうとはしない。

まさに「自分」を手放すことこそ、自分の終わりであるから。

自分の終焉、自分の人生が無意味になってしまうこと─それが怖いのだ。

しかし、その「自分」を手放さないかぎり、恐怖の鎖が解かれることはない。

自己を持ち続けるかぎり、恐怖という重荷を背負うことになる。

あなたを恐怖の鎖に縛りつけているのは、ほかならぬあなた自身なのだ。

自分自身に固執することが、恐怖を育んできた。

そしてその恐怖はやがて、絶望や悲しみへと移っていく。

なぜなら、人は「自分」を失ったとき、途方に暮れて嘆き悲しむのだから。

心の苦しみはいつも「あなた自身」にある。

人は「自己(セルフ)」なしに生きることができるし、

またそうでなければ心の混乱が止まることはない。恐怖も終わらない。

混乱があるところには、決して自由はない。

恐怖のあるところには、決して平安はない。

自己への執着を断ち切ることで、心は本来の自由と安定を理解する。

あなたは自らの心の苦しみを通してのみ、この真理を理解できる。

心の痛み、苦しみの経験が、あなたに正しさを教えてくれる。

苦しみこそ、理解への力である。

苦しむことで人は学び、自らを成熟させていく。

そして真の成熟とは、自己(セルフ)を超え、自己(セルフ)なしに生きることである。

この自己放棄の中に、自由と愛がある。

心が真に自由に、平安に満ちることで、新しい生の次元が開かれる。

心が自由と愛と静謐に満ちるとき、創造性は開花する。